第25章 真面目なセクハラ【尊/N】
「3.2.1.GO!」
練習の中で試合と同じ様な形式で競争し、仲間であってライバルでもある方南スト部の男子達に、私も離されない様にと必死に喰らい付く。
負けたくない!負けたくない!と思って居ても中々距離が縮まらず、自分自身が納得出来る結果が出ない。
『はぁ……はぁ……くっ……』
「悠鬼ちゃっ……藤原くん?」
奈々ちゃんの私を心配する様に控え目な声が聞こえた
気がしたけれど、不意に大きな手が私の頭を撫でて来る。
それが誰なのか見なくても分かった私は、顔を上げられずに悔しさを滲ませながら彼のジャージをぎゅっと掴んだ。
「悠鬼、送って行く」
『えっ、良いよ!尊の家逆方向でしょ?……それにウチはちょっと遠いし……』
「それでも毎日走って来てるんだろ?自転車も使わずに」
『……っ……』
「行くぞ」
練習が終わって暗くなった頃、帰ろうと正門に向かって居た私の隣に尊が来て送ってくれる事になった。
尊も毎日ランニングをして帰っていて人に合わせるなんて事しないのに、ちゃんと私を見てくれて気に掛けてくれる。
好きな人に送って貰えて普通なら嬉しい筈なのに、好きな人が自分に歩幅を合わせてくれたらトキメクよね?
今の私には尊の優しさが、痛くて苦しいよっ……
『尊っ……私……』
「努力はいつか報われる、諦めるな」
『……っ……私ッ!男の子に産まれたかったよ!!』
「……悠鬼」
『タイムも伸びないし、門脇先輩にすら勝てないし』
「悠鬼」
『これじゃ尊と一緒に走れない!』
「……っ……」
尊の励ましてくれる言葉を素直に受け止められなくて、私は足を止めて胸の内にある不安を全部尊にぶつける。
絶対に泣かないと決めて居たのに、「努力は報われる」と言ってくれた言葉に耐えられず、私はまるで子供の様に泣きじゃくった。
私は尊の顔を見れないけど、きっと困った顔をしていると思う。
これはどうしようもないもん、駄々を捏ねて無いもの強請りをしても仕方ない。
元々ストライドが好きで始めたけど方南の部員達と練習をして行く中で、ただ走るだけじゃなく想いを繋ぐスポーツなんだと知った。
真摯に取り組んでいる尊と出逢って、より一層羨ましくなったの。
尊と想いを繋ぎたい!