第20章 小さな彼女【一角/N】
「あ……悠鬼?」
カラカラと戸を開けて顔を覗かせた一角は、悠鬼の姿を見付けては普段より控え目に声を掛けて来る。
鍛錬中、ずっと目を合わせず話しもしなかったので、先程の自分の言動が悪かった事は理解しているのだろう。
動揺して少し戸惑っている様子は、鏡越しに見て居る悠鬼にとって可笑しく笑いそうになる。
それでも悠鬼は平然を装い、聞こえないフリをした。
「何だよ、まだ怒ってんのかよ?」
『べつにおこってません。それよりわたしがはいってるときは、おふろにはいってこないでっていってるじゃないですか?まだらめさんせき』
「やっぱ怒ってんじゃねぇかよ!」
『うるさい!ひびくでしょ!』
悠鬼は怒ると一角に敬語と『斑目三席』を使うので、長く付き合っている一角にも分かってしまう。
彼女の機嫌を取ろうとしに来たのに、悠鬼はまた目を合わせず淡々と冷たい言い方をする。
『わかってるわよ、いっかくがそういうつもりでいったんじゃないって……わたしだって、まだいっかくとけっこんしたいとか、おもってないもの……でもっ……』
「……い、いつかはなりてぇって思ってる」
『えっ?』
悠鬼の小さな躰は、一角の逞しい腕の中にすっぽりと納まってしまう。
一角の言葉に驚いた顔をする悠鬼は、真っ赤になってそっぽを向く彼を見上げる。
「俺達のは結婚を前提の付き合いだって言ったんだッ……俺は考えてねぇぞ、お前以外の女なんて……」
『……っ……えぇ、わたしもあなただけよ、いっかく……ふふっ、このすがただと、ちゃんとだきしめられないのが、ざんねんねぇ』
悠鬼も一角も今はまだ結婚を考えていないと思っているだけで、お互いに気持ちは同じ。
いつかその時が来たら、目の前の貴方と一生を添い遂げたい。
一角を抱き締め様とした悠鬼の短い腕は、彼の背中に回せず少し寂しくなってしまうが、届く限りで目一杯抱き締めながら一角の言葉に嬉しそうに微笑む。
「……なぁ、餓鬼の姿でも出来んのか?」
『え?……い、いやよ!こんなすがたでなんか!』
「起っちっまった……」
『な!?……こどものからだになんか、きょうみないでしょ?なんでそうなるのよ!』