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淡い恋心

第17章 任侠一家:更木組・弐【剣八/N】



市丸さんに教えて頂いた住所に訪れた私は、ウチよりも大きなお屋敷に目を見開いて呆けてしまう。
それでも意を決して、家の中に声を掛けます。

『御免下さい』

「あ゛ァ?何だ、てめェ……何処の組のモンだ?」

『(組?)あの、こちらに更木剣八さんはいらっしゃいますか?』

「!?てめェ……アニキに何の様だ!」

『剣八さんにお会いしたいのですが、ダメですか?』

「知らねぇ奴を通す訳にはいかねぇなァ……何なんだてめェ」

『私は……っ……』

門のところで坊主頭の男性に怪しい目で見られ、私が困っていると玄関から剣八さんが現れた事に気が付く。
彼は家の中から私を驚いた顔で見て居る。

剣八さんが驚くのも無理はない。
彼も私同様に、家の事はあまり話してくれてないので、彼が極道の家の者だという事は知りません。

ですが私には彼が何処の誰だろうと関係ありません。

私は目を細めて、坊主頭の彼の後ろにいる剣八さんを愛おしく見つめる。

『私は剣八さんのお嫁さんになる為に来ました』

「なっ!?」

「悠鬼……何でここにっ」

『私は父の決める結婚より、貴方を選びました……勘当されちゃいましたがっ』




そう無邪気に笑顔を見せる悠鬼の頬は、真っ赤に腫れていた。
こいつが自分の親に怯えていたのは、俺も気付いてなかった訳じゃねぇ。
怖い筈なのにそれでも勇気を振り絞って、自分の気持ちを伝え勘当される覚悟で俺を選んだんだろう。

けど俺はこの間悠鬼といる時に、他の組のモンに狙われて怪我したのがこいつだったらと思うと、情けねぇけど凄ぇ震える程怖かった。

自分の現実を思い知らされた。

だが……


『剣八さん、私が貴方を幸せにします……ですから剣八さんは私を幸せにして下さいな』

俺よりずっと小さくて、力を入れたら簡単に壊れてしまいそうな華奢な躰をしているのに、俺を見る悠鬼の目は真っ直ぐで俺の悩みなんて一気に吹っ飛んぢまう。

どんなものを失っても、こいつだけは失いたくない。
俺が護れば良い。

差し出された細い左手の薬指に、婚約指輪を嵌めて誓ったんだ。

俺は永遠に悠鬼を護り、愛すると……

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