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淡い恋心

第17章 任侠一家:更木組・弐【剣八/N】



剣八さんも私が受け取ってくれると思っていた様で、泣いて逃げる私に驚いた顔を隠せずに居ました。

すると……

「悠鬼!!」

『えっ?』

ーパァンー

突然剣八さんの腕の中に抱き締められたかと思うと、不意に銃声が聞こえ私を抱く彼の肩が血で真っ赤に染まる。
剣八さんは私を抱えて壁に隠れ、撃って来た相手を自分の銃で撃ち返す。

『け、剣八さん?……肩が……』

「チッ、こんな時に現れやがって……悠鬼、怪我はしてねェか?」

『私より剣八さんがっ』

「これくらい大した事ねェよ」

『大した事あります!早く病院にっ……剣八さん?』

私は状況が分かりませんでしたが、兎に角剣八さんの血を止めないとと、ハンカチを出して肩を押さえるが彼にぎゅっと抱き締められる。

「……っ……俺は幸せになれねェな……折角っ……」

『剣八さん?』

「悠鬼、悪かったな……さっきの事は忘れろ」

『け、剣八さっ……んぅ……』

その時の彼は、今まで見た事ない程弱々しく声も躰も震えて居て、剣八さんは私が気を失う程何度も何度も角度を変えて、切ないくらい甘く優しい口付けをしてくれました。

「こいつを危ない目には合わせられねェ……本気で惚れた女をッ……悠鬼……」







目を覚ました時、私は何故だか実家の前で寝ていたそうで、血が付いたハンカチを握り締めていた。
剣八さんはきっと私がこの家の者だと知っていた様で、血の付いたハンカチを見つめて現実なんだと思い知る。

(俺は幸せになれねェ……)

その言葉を思い出し、ぎゅっと自分の躰を抱き締める。

今も残っている。
いつも力強くて逞しい腕が、あの時だけは壊れてしまいそうな程弱々しくて、口付けだってあんなに優しくて愛おしいのは初めてです。

あの指輪を受け取りたい。
剣八さんのくれる愛を失いたくない。
たった一人、剣八さんだけを愛したい。

その時、私はこの家を捨てる覚悟を決めました。


案の定、私は父に勘当を言い渡され、呉服屋さんで剣八さんのご自宅を教えて頂きました。

「悠鬼ちゃん、剣八さんと結婚する言う事がどういう事か分かっとる?」

『いいえ、分かりません……ですが、覚悟は出来ています。剣八さん以外の方は考えられません』

「フッ、そうか……君ならえぇかも知れんなぁ」

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