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淡い恋心

第17章 任侠一家:更木組・弐【剣八/N】



『は、ハンカチじゃダメですねっ……ごめんなさい!えっと……』

「俺は良い……それよりお前こそ、着物が濡れちまったな」

『えっ……あぁ、このくらいなら大丈夫です!助けて頂いて有難う御座います』

「……来い」

『えっ!?……あ、あの……』



男性は濡れた服を乾かさないまま私の手を強引に引いて歩き、私が連れて来られたのは商店街の路地裏にある趣きあるお店。
幼い頃から何度もこの商店街にお買い物に来ていますが、路地裏のお店に来るのは初めてです。

「あれぇ、更木の若頭……貴方が来るなんて珍しいないですか?」

「まだ頭になってねぇんだ、その呼び方は違ェだろ……市丸」

「何言うてはりますの!頭になるんも時間の問題やないですかぁ?……ん?そこのベッピンさんはどちらさんですの?……まさかっ!?」

私達が入ったお店は、呉服屋さんです。
私は毎日着物を着て生活していますが、ここのお店は初めて知りました。
家にある着物達に負けないくらい、いやそれ以上にお高そうでとても綺麗な物ばかり。

「違ェよ、良いからこいつに似合う着物を着せろ……今着てる奴も綺麗にしろよ」

『えぇ!?』

「畏まりました……その前にタオル持って来ますわ、そのままじゃ風邪引きますでぇ」

『あ、あの!……私なら大丈夫ですから、こんな高そうな着物……』

「あ゛?お前のだって高い着物だろ?……ちゃんと庇ってやれなかったし……」

『そんな……貴方のせいじゃありませんのに……』

「人の好意は素直に取って置くモンだ……お前、名前は?」

『……悠鬼です』

私は彼に自分の苗字【彩條】家を、名乗りませんでした。
この苗字を聞くと、大抵の方が私から離れて行くので、私は今まで友人も恋人も出来た事はありません。
知らない方には、不用意に名乗らない事に決めたのです。

「俺は更木剣八だ……悠鬼、俺の着物はお前が見立てろ」

『わ、私で良いんですか?……市丸さんに……』

「俺はお前が選んだのを着てェんだよ……」

『!?……はいっ』

何故だか私は更木さんのその言葉が嬉しくなってしまい、お店にある着物を一枚一枚彼に当てて、真剣に彼に似合う着物を選びました。

選んでいる間、彼はずっと私を見ていらしたので、何故だか胸がドキドキして落ち着きませんでした。

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