【進撃の巨人】Happy Birthday【生誕祭】
第2章 Happy Birthday Dear Eren
「箱をこれだけ積み上げて登りゃ、崩れる。バカでも分かることだ」
「・・・ごめんなさい」
怒られたと思ってシュンとなったエレンに、兵士は溜め息を吐いた。
「お前、調査兵団に興味あるのか」
「うん! 巨人をぶっ殺すし、この世界で誰よりも自由だから!」
一瞬にして緑色の大きな瞳を輝かせたエレンに、兵士は冷たさすら感じる三白眼を揺らす 。
壁の向こうでは“死”しか見ていない。
しかし・・・
この純粋な少年が期待しているのと同じものを、自分も感じているのは確かだ。
「オイ、ガキ・・・いくつだ?」
「9さ・・・」
「10歳!」
エレンが答えるのを遮るように、ミカサが口を開いた。
「“今日”で10歳。そうでしょ」
「ああ、そうか」
今日は3月30日。
誕生日ということをすっかり忘れていた。
「なんだ・・・誕生日だったのか」
「は、はい」
「めでたい日に、流血なんてザマにならずに済んで良かったな」
兵士は少しクセのある茶髪を撫でた。
ひんやりとした手だが、優しい。
「ひとつ大人になった祝いに教えてやる」
エレンの目を真っ直ぐと見つめる、二つの瞳。
静かで暗く、悲しみを携えている。
不思議と優しさも感じた。
「死に急ぐんじゃねぇ」
その言葉はきっと、調査兵には一番似合わないものかもしれない。
でも、何故かこの兵士の口から聞くと説得力を感じた。
「お前がこうして今、生きてることに感謝してる奴もいることだろう」
兵士はそう呟くと、警戒心を剥き出しにして睨んでいるミカサに視線を落とす。
「まぁ、ションベン臭ぇガキには理解できないだろうがな」
ワシワシともう一度エレンの髪を撫でると、つむじの毛がピョンと跳ねた。
壁外に出て、本当に恐ろしいのは巨人ではない。
“絶対の死”を目の当たりにして曝け出す、人間の本性だ。
「・・・・・・・・・」
兵士は外套を翻し、隊列へ戻っていく。
小柄な背中に、大きな双翼。
エレンは胸の高鳴りを感じながらそれを見つめていた。