第11章 光
「"いってらっしゃい"と見送ってくれる。"おかえりなさい"と出迎えてくれる。あんたの笑顔が、いつでも此処にある。俺はそれを見る度に、とても安心する。早く帰ってこようと思える、無事に戻って来ようと思える。そしてあんたに”ただいま”と、言おうと思える」
斎藤は志摩子の手を引くと、優しくその腕に彼女を抱いた。
「新選組にとって、あんたは捕虜なのかもしれない。女のあんたが出来ることは、限られているかもしれない。だがいつの時代にも、女には女の役割が男には男の役割があるはずだ。それはどちらかにしか出来ず、かけがえのないものだと俺は思う」
志摩子の中にある不安を溶かすように、斎藤の言葉は彼女へと届いていく。何も出来ないのだと、そう嘆きのように口にする志摩子に教えるように。そうではないのだと、伝えるために。斎藤は言葉を続けた。
「志摩子が何も出来ないなどと、それは嘘だ。あんたはこんな夜遅くまで医学の勉強をし、必死に自分の出来ることを探している。左之から聞いた、とても手際のいい手当だったと」
「あ……っ」
「自分には何もないと、何も出来ないなどと。そんなこと……言わないでくれ。俺には……俺達には、あんたが必要だ」
「……っ! はい……ッ」
月明かりが強くなる。夜が続いて行く。
部屋の外に、影が一つ。揺らめいて、部屋から遠ざかっていく。音もなく、ゆっくりと。
揺れる長い漆黒の髪は、何処か悲しげに見えた。