第42章 後書き
桜の花びらが、はらりはらり。
真新しい制服に身を包んだ一人の少女が、花びらを掌の上に乗せて微笑む。
「志摩子、急げ。学校に遅刻するぞ」
「はい! 今行きます、千景様」
同じ学校の制服に身を包んだ男――風間は、志摩子の方を一瞥してはまた歩き出す。駆け寄って、志摩子は風間の隣に並ぶと深呼吸を繰り返していた。
「おい、何故深呼吸している」
「え、こ、これですか? それはその……今日は念願の入学式ですし! 緊張するではありませんか」
「お前は一年生代表だからな。流石、俺の幼馴染と言ったところか」
「茶化していますね!? もう、こんなことなら試験の時手を抜けばよかったです」
「そんなことをしてみろ、他の奴らに恨みごとを言われるぞ」
「わかってますよ……そんな愚かな真似はしませんから、御心配なく!」
小さな口喧嘩を繰り返しながら、歩いていると遠くの方でチャイムの音がする。
「なっ!? ち、千景様不味いです!!」
「……ちっ」
二人は一斉に走り出す。もうすぐ門の前! というところで……まるで立ちはだかるように、佇んでいる男の姿があった。
「お前達、止まれ。俺は風紀委員、斎藤一。お前達二人を遅刻者として、ペナルティを与える。此処に名前を書け」
ボードを差し出す斎藤を、志摩子は顔を上げじっと見つめる。
「……あんた、名は? 見かけない顔だな」
「わ、私は……蓮水志摩子と申します。一年生です」
「一年か……」
斎藤は志摩子へと近寄ると、腕を組みながらふっと微笑んだ。
「遅刻は許せんが、今日は入学式だったな……仕方ない、見逃してやろう。ようこそ、私立薄桜学園へ……――」
時を越えて、再び回り始める。新たな物語の一ページ。