第12章 虚
――元治元年十月。
志摩子は相変わらず庭で掃除を済ませているところだった。すると、玄関先の方で賑やかそうな声が聞こえてきてので、気になって顔を出してみる。
するとそこには、見知らぬ男と近藤に土方がいた。
「伊東殿! お待ちしておりましたぞ」
「これは局長自らのお出迎え、痛み入ります」
近藤の知り合いだろうか? そう思っていると、背後から数人やってきて驚いて志摩子は振り返った。沖田、斎藤、原田、永倉といつもの面子が揃っていた。
伊東を凝視しながら、永倉が口を開いた。
「あれが伊東甲子太郎か。北辰一刀流の免許皆伝らしい」
志摩子はとりあえず、詳しいことは理解出来そうになかったのであれが『伊東』という男なのだということだけ、覚えておくことにした。
「伊東さんは近藤さんにその剣の腕を買われたとは聞いていたが、まさかあの人が新選組に名を連ねるとは。思いもしなかった」
「斎藤の言う通りだ。なんだかきな臭いな……何か裏があるんじゃないか? そんな人が、俺達と上手くやれるのかね」
「さあ? 一君や左之さんはそう言うけれど、話によればとても博識な人らしいよ」
「へぇ……」
どうやら伊東という男、本日付で新選組の仲間入りするらしい。遠くから見ていた志摩子には、どこか土方の表情が険しいように思えて仕方なかった。
夜になると、伊東の歓迎会がささやかに開かれることになり、台所では千鶴と志摩子が、いつもの隊士達の食事とお酒の準備を整えていた。そこへ、土方が姿を見せる。