第11章 光
「あ、これは千鶴様によく似合いそう」
淡い桃色の簪。しかし今の千鶴は男装をしている、とても使ってくれてと渡せそうにもなかった。
「うわっ」
小さな女の子が突然、店の前で転んでいるのを志摩子は見つける。一瞬驚いたがすぐに駆け寄った。
「大丈夫? あら、膝を擦りむいていますね」
「うっ……ううっ」
「泣いては駄目ですよ。女が涙を見せる時は、いい男の前でだけになさい」
志摩子は手ぬぐいを取り出し、優しく傷についた砂を払う。
「痛いの痛いの、飛んでけっ」
志摩子は少女の傷を掌で覆いながら、ぽいっと空に痛みを投げ捨てるイメージで手を空へと向けた。すると少女は泣きそうな顔から、きょとんとした顔へと変わる。
「お姉ちゃん、もう痛くない!」
「そうでしょう? これは私のおまじないなのですよ」
「え! お姉ちゃん凄い!!」
「ふふ、もう転ばない様に気を付けるのですよ」
「はーい!」
少女は元気にまた走り出してしまった。それを見送ると、志摩子は店へと足を向ける。同時に、山崎が店から出て来た。
「志摩子君は、やはり女性だな」
「……? 何かおかしなことをしましたか?」
「いや。可愛いなと思って」
「かわ……っ!? ど、どうしてそうなるのですか!?」
「え? あ、いやそのっ……! 小さな女の子を助けている様はとても女性的で、その……少女が嬉しそうに走っていく様を見て花のように笑う君が……その……ああ、いやなんでもない」
山崎は気まずそうに頬を赤く染めながら、視線を泳がせていた。あまりの彼の動揺っぷりに志摩子は面白くなったのか、思わず吹き出した。