第2章 風
「私も都へ連れて行って下さい。私はもっと、千景様と共にこの世を見てみたい」
「そうと決まれば、お前にこれをやろう」
風間は懐から小刀を取り出すと、志摩子へと渡す。志摩子は小刀をじっと眺めたまま、受け取る様子がない。
「志摩子、受け取れ」
「え……? あ、その……私は刀の心得など何も……」
「勘違いするな、もしもの時の護身用だ。使い方がわからないというなら、少しだけ護身術程度なら教えておく。だが、それはあくまで身を守る手段の一つであり武術とは異なる」
「……ふふっ、はい」
けして戦わせるためではない、という意味を強調する風間に思わず志摩子は笑みを零す。何処か安心したように、志摩子はその小刀を受け取った。
「その小刀は、俺が持つ太刀と対になる代物だ。小太刀はお前には過ぎたものだからな、小刀であれば懐に忍ばせておける。丁度いいだろう」
「そのような貴重なもの、貰って宜しかったのですか?」
「当然だろう。そうでなければ、お前にそれを渡すはずもない」
志摩子は大事そうに小刀を握り締めた。そんな志摩子の嬉しそうな表情を見ながら、千景は徐に立ち上がった。
「今から少し、教えてやる。着いて来い」
「……! はいっ」
志摩子も風間と共に都へ行くことが決まり、風間家を発つ日程もすぐに決まる。
元治元年六月三日、二人は都へと姿を現すこととなる。
◇◆◇
都を訪れてすぐ、志摩子は風間に許可を貰い少しだけ一人町を見て回っていた。
「凄い……これが、京の都」
初めて見る景色に戸惑いながらも、楽しそうに出店や甘味屋を訪れる。すると、遠くの方で慌ただしい声が聞こえてくる。