第2章 風
「私にそのようなささやかな願いを託して頂けるのですか」
「願い……か」
風間は鼻で笑う。嘲笑うようにではなく、少しだけ呆れ気味に。それはたぶん、志摩子に対してではない。
「はい、私にはまるで願いのように聞こえました。男の真似事などけしてせぬようにと……そんな願いのように」
「そうかもしれんな。俺はお前が刀を握ることを、良しとは思わない」
「何故ですか? 千景様と共に在るのであれば、私も武術を習います! 戦える者としても、貴方の傍に……っ」
「俺はそれを望まない。変なところでお前は真面目だな……」
そっと風間は志摩子を抱きしめた。
「その手を血で染めるな。いいな」
「千景様……」
「わかったのか、わからぬのか。どっちだ」
「……どうしてそこまで……」
「いずれわかる時が来る。それで、結局どうする? お前は都にも行ったことはないのだろう?」
「そうですね……。本当に、お供してもよいのでしょうか?」
「俺はお前に決定権を委ねているのだが?」
あくまで志摩子の意思を尊重する様子の風間に、志摩子は微笑む。
志摩子の知る彼は、何処か冷徹で鬼を統括する身として十分な器量と、周りの鬼達の彼への信頼は厚い。けれど何処か孤独に見えて、時折見せる切なげな表情がそれに拍車をかけているようにも思えた。
けれど志摩子に接する彼ときたら、他の鬼達と接している冷たさは何処にもなく、あるのはいつも温かくて柔らかな優しさ。
そんな彼だからこそ、志摩子も何か力になれたらと思ったのだが……どうやらそれは風間の望みではないらしい。