第11章 光
北国に位置する蓮水家。一人の男が、その門を潜り抜けた。太陽のように輝く髪は、風に揺られ一層強く輝いて見える。
「出迎えとは、ご苦労なことだな」
「よう、風間の坊主。俺がいない間に、志摩子を連れて行ったそうじゃないか。駆け落ちでもする気なのかと思ったよ」
「ふん……、俺がそんな面倒なことをすると思っているのか? 蓮水栄(はすみ えい)」
「いや……? しないと思ったよ。俺が志摩子をどれだけ大事にしているか、それくらいは知っているだろう?」
「これがあれの兄だと思うと、気が滅入る思いだ」
「お前みたいなのが志摩子の夫になるだなんて、そう思うだけで俺は吐き気がするな」
「……志摩子は渡さぬぞ」
「あいつがいいというなら、それでいい。俺は、それだけの存在だ」
背の高く綺麗な顔をした男、栄。微笑みは何処までも深く、闇を映して見えた。影がなくとも何処か翳っていて、心情を読み取るのは至難の業。風間は蓮水家を訪れ、志摩子の兄である栄の元へ出向いていた。
「それで? 今日は俺に何か用があるんだろう?」
「俺は、志摩子を貰い受けたことと今後一切手を出さぬようにと、釘をさしにきた」
「……ほぉ?」
「志摩子はまだ蓮水の重みを知らん。知らぬが故にあのような何も知らぬ無垢で育ち、外の世界もまったく知らぬままだ。それが、お前達にとっての守るという形だったというのか」
「そうだな……少なくとも、その価値はあった。雪村が堕ちたのは知っているだろう?」
その言葉に風間は、ぴくりと僅かな反応を見せるだけだった。しかし栄にとって、それは肯定も同じだった。