第10章 陰
「お二人共、食べないんですか?」
そう千鶴が声をかけると、斎藤は気まずそうに目を逸らした。それは土方も同じだった。千鶴はわけがわからず首を傾げるが、助け船を出すように原田が代わりに応える。
「千鶴、二人は志摩子のことを待ってるからいいんだよ。気にしなくて」
「え……?」
もう一度二人を見る千鶴。しかし、完全に目を逸らしているため視線が合うことはなかった。すると、戸が誰かの手により開けられる。
「遅れました」
「志摩子か、おせぇじゃねぇか。早く座れ」
「……あんたが真面目なのは今に始まったことじゃないが、たまには加減を考えた方がいい」
「えっと……歳三様と一様は、その……私が来るのを待っていて下さったんですか? 申し訳ありません、総司様には皆様に先に召し上がって下さいと伝えたはずなのですが」
「お前がいないと、落ち着かねぇんだよ」
土方の言葉に、沖田と原田は目を丸くして彼を見た。志摩子が座ったのを確認すると、土方は何事もなかったかのように手を合わせ食べ始める。斎藤も同じく。
「そうだ、志摩子。食事が終わったら、俺の部屋に来い。話がある」
「はい、かしこまりました」
食事が終わってすぐ、志摩子は言われた通り土方の部屋へとやってきていた。
戸を開けて中へ招き入れられ、足を踏み入れる。物の少ない部屋に、机が一つ。適当に腰掛けるように言われ、志摩子は腰を下ろした。