第10章 陰
「僕は後どれくらい、君の傍にいれるのかな……」
彼の中に眠る時計は、次第に勢いを弱めていることに本人も気付いていた。もうこの胸に、志摩子を抱くことは叶わないかもしれない。二度とないというならば、せめて今だけはと。
そう、願わずにはいられなかった。
残酷な程に鮮明な現実だけが、押し寄せていた。
◇◆◇
――元治元年八月。
藤堂は一人、隊士募集のためということで江戸へ発つこととなった。志摩子はそんな藤堂を見送りながら、洗濯物をしていた。
「志摩子ちゃん、ご飯にするよ。おいで」
「総司様! わかりました。ですが、もうすぐ終わりますのでやりきってから参ります。先に召し上がって下さい」
「ん、わかった」
沖田は一人で部屋へと向かうのだった。志摩子は気合いを入れて、洗濯物を終わらせるために勢いをつけた。
沖田が戻ればその場にいた土方、原田、斎藤、そして千鶴は「志摩子は?」という顔で沖田を見た。
「……そんな顔したって、志摩子ちゃんはすぐには来ないよ。もう少しで洗濯物が終わるから、終わったら来るってさ。先にどうぞだって」
「んじゃあ、食べちまうか」
原田が頂きます、と手を合わせもう食べ始めていた。沖田も同意するように、手を合わせ食べ始める。しかし……斎藤と土方はそのまま箸も持たず黙って座り続けていた。