第10章 陰
「それはね、僕にとって死んでいるのと何も変わらない。僕が刀を握れなくなった時、それは死と同等だ。僕にはこれしかないんだ、刀を握って人を斬ることでしか……僕は自分の存在を認めることが出来ない。僕が生き続ける意味は、たったそれっぽっちなんだ」
「そんなこと……っ」
「何も出来ない自分を認めてしまえば、僕はきっと今の自分を許せなくなる。生きていることが、まるで罪のような気がしてしまう。志摩子ちゃんが……羨ましい」
志摩子は沖田の頬を包み込んでは、今にも泣き出しそうな顔で言葉を漏らした。初めて見る志摩子の表情に、沖田は今までで一番苦しそうに笑った。
「私が……」
「志摩子ちゃん?」
「私が、総司様の生きる意味になります」
「……何馬鹿なこと言ってるの」
「総司様の代わりに、私が貴方の弱さも不甲斐なさも全て受け止めます。だから……そんなこと、言わないで下さい」
「ほんと、馬鹿だね。君は」
「私が代わりに背負いますから、受け止めて見せますから……っ」
志摩子の声は、次第に涙交じりに変わっていく。
沖田は困ったように笑ったかと思えば、彼女の手を引き優しく抱きしめた。
「じゃあ……僕が君の本音を、全部聞いてあげる。受け止めてあげる。全部背負ってはあげないけど、半分くらいなら君の弱さを……不甲斐なさを。背負ってあげてもいい」
「……総司様……ッ」
「どうか、僕の胸の中でだけ……泣いて。誰にもその姿を、見せないでいて」
互いを必要とし合うように、脆くも繋がりを求めて、そして抱き合った。
その場しのぎになろうとも、それでもいい。今はただ、互いの存在を認め合いながら体温を分け合う。
志摩子が目を閉じれば、一筋の滴が頬を伝う。
沖田はけして、彼女の涙を拭う真似はしない。それは自分の役目ではないと、そう教えるように、自分に言い聞かせるように。