第10章 陰
「私が生きてきた世界は、あまりにも小さく……閉ざされていました。私の未来は、当の昔に決まっていたのです。家のために生き、そして自ら選ぶことも奪われそんなことにさえ私は気付くことなく。家の者以外の知り合いも、友と呼べる相手さえ……おりませんでした」
「何それ、所謂箱入り娘ってやつ?」
「そう……なんだと思います」
一つ一つ、思い出すように。本当はこんなことを、沖田に話すつもりはなかった。けれど何故だろうか、沖田の傍にいるとつい弱音は吐いてしまいたくなる自分がいたことに志摩子は気付いていた。
沖田はけして、志摩子の見たくないと望むものを見ないで済むようにはしてくれない。口に出し、常に現実と対峙させる。
けれどそれは、けして嫌がらせではないことを志摩子は知っていた。
「私は守られていたようで……常に周りに都合のいいものだけを見せられて、その他を全て見ない様に目隠しをされていただけなのです。私はこうして外の世界を知り、己の未熟さを痛感致しました」
「完璧な人間なんて、何処にもいないよ」
「私は何も知らないまま生きてきた。何の痛みも、重みも知ることなく。けれど……新選組の皆様と共に時を過ごしていると、見えてくるものがありました。それは、命の重みです」
沖田は俯きながら、静かに志摩子の言葉に耳を傾けていた。