第10章 陰
「……んっ、ごほっ! ごほ……ッ」
沖田は突然咳込むと、口を押さえた。指の隙間から、血が流れ落ちる。その光景を見つめながら、虚ろな瞳で掌を見つめていた。
いつまでもそうしていると、再び足音が近付いてくる。だんだんとその足音は、走ってくる音へと変わる。
「総司様? 総司様!? どうかなさったんですか!!?」
現れたのは、やはり志摩子だった。沖田の血を見ると、血相かいて屯所内に戻ろうとする。きっと、山南か藤堂を呼ぶ気だろう。そうはさせないとばかりに、沖田はぐっと志摩子の腕を掴んだ。
「総司様!? 離して下さいっ、今人を……」
「……あんまり騒ぎ立てないでくれるかな? 殺すよ」
「総司様……」
「隣、座って。お願いだから」
「……でもっ」
「お願い。座って……」
力ない沖田の声に、志摩子は複雑な思いを募らせながらも静かに隣に腰掛けた。志摩子はそっと、懐から手ぬぐいを取り出し沖田の口元を拭った。
「……志摩子ちゃん」
「せめて、これくらいはさせて下さい。何も、お尋ねしませんから……」
「……うん」
口元と、掌の血は志摩子により綺麗に拭われる。
いつもの沖田は何処へやら、肩を落とし何やら物思いに耽っている様子を見せる。そんな彼にかける言葉を探しながら、志摩子はぎゅっと彼の手を掴み握った。
「あの、私……自分の気持ちを、こうして誰かに伝える……という行為。とても、苦手なんです」
「どうしたの、急に。変なの」
沖田は鼻で笑う。