第10章 陰
土方達が戻らない間、沖田は屯所の庭にある長椅子に座り、空を眺めていた。空を通して、彼らと繋がっているような気がしたが、それは単なる思い過ごしにすぎないと嘲笑した。
ふと足音が聞こえてくる。音のする方へと顔を向ければ、大量の本を抱えた志摩子がいた。
「志摩子ちゃん、それどうしたの?」
「え……? ああ、総司様。平助様に頼んで、少しだけ町まで買い出しに出かけていたんです」
「土方さんがいないのをいい事に。山南さんにばれたら、怒られちゃうよ?」
「もう許可を得ています!」
「……いつの間に山南さんを抱き込んだの?」
「何の話ですか?」
沖田は心の中で、恐ろしい子だと呟いた。
「そんなことよりさ、暇だから少し僕に付き合ってよ」
「総司様に……ですか? 話相手なら、私は向かないと思いますが」
「言葉を交わすのに、向き不向きなんてあるの?」
「適材適所はあると思います」
「それには同意するよ。でもね、ちょっと僕の独り言に付き合ってほしいだけ。駄目?」
「……わかりました、本を置いてきますので少し待っていて下さい」
一度立ち去っていく志摩子を見送って、沖田はまた空を見上げた。雲が風に乗って、何処までも流れていく。自由に流れていく様が、どうしてか彼には少し羨ましく思えた。