第2章 風
「志摩子、雪村千鶴に関する情報が京の都の方で手に入った。俺は少し、都まで出向く」
「はい」
「その他に、俺は為すべきことをしに行く。だがそうなると、お前を此処に置いて行かねばならなくなる。それも、数日の話ではない」
「そうですか……」
「しかしそれは俺の望むところではない。志摩子、お前が望むなら……俺はお前も都に連れ出そうと思う」
「……よいのですか? 私に、千景様のお力になれるかどうか」
「いいか、志摩子。俺が今から言うことをよく聞いておけ。そして、何があろうともこれだけは忘れるな」
風間は志摩子に近寄ると、頬に優しく手を添えて紅蓮の瞳で彼女を見つめる。強いその瞳に魅せられて、志摩子は息をすることも忘れそうになる思いだった。
「いつでも、どんな時でも、お前はお前らしく……そして何処までも"女らしく"あれ。男の真似事などする必要はない。それでは、お前を花嫁に選んだ意味がないからな」
「女らしく……ですか」
「そうだ。お前はただ、俺の傍にいるだけでいい」
願うように、射抜かれるように見つめられて志摩子は少し恥ずかしげに目を伏せた。けれど彼が伝えてくれた言葉を、しっかりと噛みしめては考える。
"女らしくあれ"
それは勿論女性である志摩子にしか出来ないことだ。男の真似事をしなくていい、ということは無理に刀を握ったり、戦力になろうとするなという意味だろうか?
志摩子は目を伏せたまま、応える。