第9章 嵐
「お前の相手は、俺だろう。勝手に喧嘩を吹っ掛けたのは、長州の方だ。そんな奴らが、武士らしく綺麗に死ねるだなんて甘ったれたこと抜かしてんじゃねぇよ!」
「……自ら戦を仕掛けるからには、殺される覚悟くらい済ませておけと言いたいのか?」
「殺される覚悟もない奴が、俺達の前に立ちはだかるんじゃねぇよ。刀を握るからにはな、それくらいの覚悟持ち合わせておけって言ってんだよっ!」
剣を交え始める。千鶴は二人を見守りながら、隊士の手当てを進める。
「貴様らのような奴らの元に、志摩子がいると思うだけで胸やけがする思いだッ……!」
「あ? お前が勝手に手離した女だろう。そんなに返してほしいか?」
「返してほしい、だと? ほざけっ、あれは貴様達に俺が貸してやっているに過ぎない」
「そういうことにしておいてやる……よっ!」
「くっ……」
次第に戦いは更なる勢いを増す。どちらかと言えば、風間の方が押しているようにも見える。しかし土方も引けを取らない。激しい攻防戦が繰り広げられる。
「志摩子が背負っている重みを知らぬお前らでは、どうせ共に生きていくことも叶わん!!」
「あいつの背負っているもんのことなんて知るか! だがな……もしもあいつが……あいつが俺達に助けを求めるようなことがあれば。その時は……黙って応えてやる覚悟くらいあるッ!」
勢いよく風間の刀が飛ぶ。その刀はあろうことか、千鶴の方へと飛び彼女の腕に軽く傷をつけた。それを見た土方は、はっとなり唇を噛んだ。風間の口元は、にやりと歪んでいた。