第9章 嵐
「誰かを守るということの重さを、貴様らは知っているのか」
風間は切っ先を土方へと向ける。睨み返しては、彼の低い声がどっしりと響いてくる。
「守るために犠牲にしていくものの重さを、その覚悟を貴様は……貴様らは知っているとでもいうのか。誇りや武士の生き様も知らぬ貴様らが、ただ自らの手柄のために刀を取るのとはわけが違う」
「言ってくれるじゃねぇか。生憎俺達はまだ、粗削りでね。正統派には程遠いようだ」
「お前達が為すべきことは此処にはない。早々に立ち去れ」
「そういうわけにも行かねぇ。俺達は、長州藩の逃げ延びた奴らの後を追いかけて、斬首刑にしてやらなきゃいけねぇからな」
「……敗北を知り、戦場を去った奴らを追いかけて何を為す? 腹を斬る時と場所を求め、天王山を目指した長州侍の誇りを、何故に理解せぬのだ」
「じゃあ、誰かの誇りのために他の命を奪ってもいいんですか!?」
千鶴の力強い声が、二人の会話を切り裂く。
「誰かに形だけ守ってもらうなんて、それこそ誇りがズタズタになると思います」
「……ならば、新選組の手柄のためとあらば、他の者の誇りを侵してもよいと?」
「それは……」
はぁ、と大きく土方は溜息をついた。そして、口を開く。
「何を偉そうに語り出したかと思えば……」
土方は永倉に合図を送る、同時に永倉は頷き他の隊士を連れ一気に山へと向かい走り出した。風間が手を出そうとした瞬間、土方の剣がそれを阻む。