第9章 嵐
「長州の野郎どもが攻め込んで来たら、援軍に行くための待機だろうがっ!」
「し、しかし……出動命令はまだ……」
「自分の仕事に一欠けらでも誇りがあるなら、てめぇらも待機だ云々言わずに動きやがれ!!」
土方の怒声が真っ直ぐ響く。それだけ告げると、新選組は一気に走り出した。
戸惑いの色を見せる会津藩だったが、覚悟を決めたのか新選組に続くように動き始めた。
現場に到着した彼らだったが、場は既に血と死体で埋め尽くされていた。あまりにも悲惨な光景に、千鶴は口元を押さえた。
生き残った者達の傷の手当てをしながら、新選組は会津藩と情報を交換しながら現状の把握に急いでいた。それぞれ情報を収集しながら、それを元に次の一手に踏み込もうと模索する。土方を中心に、隊は三つに分けられる。
それぞれが己の役目を果たすべく、隊を率いる組長に続く。
千鶴もまた、同じくして土方の率いる隊に残り彼と共に新たな目的地に向かい走り出す。
土方の率いる隊は、とある山を目指して大きな橋を渡り始めていた。しかし、前方に見たことがある姿を見つけいち早く千鶴は目の色を変える。
だがそれは土方も同じ。目を細め、強く相手を睨み付けた。
隊士の一人が、その男に向かい斬りかかっていく。男は抜刀し、虫けらを払うように隊士を斬り倒した。傷を負った隊士は、うめき声を上げながら地に転がる。
鮮やかに散る鮮血の最中に見えたのは、血と同じくらい赤い目を持つ男。
――風間千景の姿だった。