第9章 嵐
「トシ、お前も少しは休め。いつ出陣するか、わからないからな」
「俺の事なら大丈夫だ」
「……心配か?」
「何のことだ」
土方は、困ったようにそう答える。どうやら、近藤の言っている意味を理解しているらしい。
「総司達も一緒だ、何も起きやしないさ」
「……そうだな」
闇に慣れた瞳は、鮮やかに景色を映し始める。その瞳で月を見つめれば、堪らなく眩しくて仕方ない。土方は何か言いたげな様子を見せたものの、それを全て呑み込んだ。
「少しだけ、休んでくる」
「おう、そうしてくれ」
土方は一人身体を休めに行った。
夜が去り、また朝がやってくる。朝焼けの中、既に焚火は燃え尽き火を小さくしていた。
こくり、こくりと目を閉じたまま今にも眠り落ちてしまいそうな千鶴を、その場にいた誰もが微笑みながら眺めていた。途端――。
大きな爆発音と、悲鳴が混ざり合って聞こえてきた。その音に反応し、身体を休めていた隊士達は顔を上げ立ち上がる。
土方も急いで音のする方へ視線を向ければ、炎と煙が立ち上っていた。どうやら、彼らの敵が攻め込んできたらしい。
「行くぞ」
斎藤の言葉を合図に、千鶴達は戦へ向かうため走り出す。しかし、引き留める声が聞こえてた。どうやら、新選組と共に待機していた会津藩の待機部隊だった。
「待たんか新選組! 我々は此処で待機を命じられている。勝手な行動は慎め!」
すると、鬼のような形相で土方が会津藩へと振り返った。