第9章 嵐
「どうかしましたか?」
「……いえ。ところで、山南様は何を読まれているのですか?」
「それは秘密です」
「そう言われてしまうと、余計に気になってしまうのが人の性ですよ」
「いずれ、貴方も知る時が来るかもしれません。その時にでも」
「では、期待しているとします」
そうして、二人は再び本へとのめり込んでいった。
◇◆◇
一方、出陣して行った近藤率いる新選組は思わぬ足止めを食らいながら、なんとか出動要請を受けていた会津藩の待機部隊と共に、その時を待っていた。
陽が落ち、焚火を囲みながら千鶴達は身体を休めていた。ふと、千鶴が口を開く。
「今頃、志摩子さん達はどうしてるでしょうか」
その問いに答えたのは、原田だった。
「あの子のことだ、山南さんとも上手くやっているんじゃないか? あいつには得体の知れない魅力があるからな」
「え、そうなんですか!?」
「おうよ。あいつといると、いつの間にか心が穏やかになっていく。まぁ、もしかしたら俺だけかもしれねぇが。あいつを見てると、笑顔にしたくなるんだ」
「その気持ち、俺にもわかる気がする」
近くにいた斎藤までもが、口を開いた。
遠く離れていても、ふとした瞬間に思わず志摩子のことを思い出しては話題に上げてしまう。それほどまでに、新選組にとって志摩子はだんだん居て当然の存在になり始めているのかもしれない。
だんだんと時は過ぎ、夜が更けていく。土方は一人、休むことなく遠くの方を見つめていた。ふと、近藤が歩み寄り声をかける。