第9章 嵐
「志摩子さん」
「……あ、はい。なんでしょうか?」
「志摩子さんは何故、そこまでして新選組に尽そうとするのですか?」
「……そう見えますか?」
「はい。貴方も知っての通り、建前は土方君の妹ということになっていますが、本来貴方は池田屋で捉えた捕虜。貴方にとって、新選組は自分を此処に閉じ込めている憎むべき相手だと思いますが?」
「そう言われてしまうと、どう返せばいいのかわかりませんが……少なくとも私は、皆様を憎んでいたりはしません」
本を読む手を止め、志摩子は顔を上げた。
「確かに山南様の仰る通りだと思います。私は、此処に閉じ込められている身分です。ですが……幹部の皆様は私が捕虜と知りながら、優しく接して下さっています。そこにどんな思惑があったとしても、私はそう感じています。親切にして頂いていると」
「貴方は……すぐに誰かに騙されて、殺されてしまいそうですね」
「ふふ、そうかもしれませんね。悪い人に殺されてしまうくらいなら、それでもいいです」
「きっと貴方は……どうしてと泣きながら、殺されるのかもしれませんね」
「やめて下さい、もし本当になってしまったらその通りになるかもしれないじゃないですか」
「これは失敬」
山南がふっと笑った気がして、志摩子はじぃっと彼を見つめてしまう。山南は瞬きを繰り返して、困ったように志摩子を見た。