第2章 風
――元治元年五月
鬼の花嫁として、風間家に嫁ぐこととなった北国「蓮水」の鬼、蓮水志摩子。風間に連れられ訪れた西国では、今まで見たことのない世界や日常生活を送ると共に、とある話題が浮上していた。
風間家に身を置くある日のこと、志摩子は庭で番傘を差しながら紫陽花を眺めていた。
「志摩子、此処にいたのか」
「千景様……お帰りなさいませ。お勤めご苦労様で御座います」
「勤めというほどでもない。ところで、何を眺めている?」
「はい、紫陽花で御座います。雨粒が花びらを濡らす様が、とても美しいのです。千景様も、一緒にご覧になりますか?」
「いや……やめておこう。それより志摩子、そこにいては身体が冷える。此方へ来い」
「はい」
当然のように差し出された風間の手を、志摩子は取る。傘も差さずにやってきた風間へ、さりげなく志摩子は傘を傾けた。
「そのままでは、風邪を引いてしまいますね」
「ふん……大きなお世話だ」
ゆっくりと二人は部屋の中へと戻っていく。
部屋に戻ると、風間は口を開いた。