第8章 雨
「俺が、優しい?」
「はい、普通はこんなことで……ここまでしてくれる人はいないと思います」
「総司はともかく、副長ならきっと俺と同じようにしたと思うが」
「……俵抱きされそうですね」
「……そうだな」
「えっと、そこは否定して下さい……」
大人しく志摩子は斎藤の肩口に、顔を埋めていた。ふわりと、彼に匂いがして急に恥ずかしさがこみ上げてくるのを感じていた。
「一様。あの、降りても……よいでしょうか?」
「なにゆえ?」
「……その、恥ずかしく……なって参りまして」
「誰も見ていない」
「そういう問題では」
「あ、光った」
「一様……っ!」
「ふっ……冗談だ」
「(……今絶対笑った)」
斎藤でも、冗談を言うことがあるのか。志摩子にとって、新たな発見だった。
斎藤の体温を感じながら、志摩子は目を閉じていた。一定のリズムで揺れるので、あまりにもそれが心地よくて……思わずうとうとしてしまいそうになる。
「志摩子、何かあれば迷わず俺を頼れ」
目を開けて、少し顔を上げれば凛とした斎藤の顔がすぐ目の前にある。
「はい……」
小さく返事を返せば、少しだけ斎藤の口元が笑った気がした。
雨はしとしとと降り続け、屯所の庭に紫陽花が咲く。志摩子の視界に紫陽花が映れば、思い出すのは風間のことばかりだ。
けれど少しずつ、新選組の人達との思い出も増えていく。この雨の日も、やがて思い出すのは紫陽花と風間ではなくなるかもしれない。斎藤の腕に抱かれながら、志摩子はぬくもりを己の元にかき集めるように、ぎゅっと一層強く斎藤に抱き着いた。
「明日には、雨も上がるだろう」
夏はもう、すぐそこまで来ていた。