第8章 雨
「あーあ、一君に見せつけられたぁ」
沖田のその言葉に、誰もが口々に話し始めそしてまた稽古へと戻っていく。沖田は土方の方へ近寄ると、口を開いた。
「自分が行けばよかったのに」
「なんで俺が」
「そんな食い入るように、二人が出ていった方を見つめるくらいなら。そうしたらよかったんじゃないかって、言ってあげてるんですよ」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。稽古に戻るぞ」
「はいはい」
未だに時々、間隔を空けて鳴り続く雷に沖田はふと思う。
「……雷が苦手だなんて、女の子だなぁ」
◇◆◇
屯所内の廊下を歩きながら、怖いせいかぎゅっと斎藤の手を握りながら志摩子は俯いて歩く。視界に少しでも雷が飛び込んでこようものなら、もう怖くて仕方ないからだ。
「志摩子、俯いていてはこけてしまうぞ」
「……すみません」
「どうしても、怖いのか?」
「はい……こればかりは」
「だが、このままではいつまで経っても部屋に着かん。許せ」
「何が……へっ!?」
斎藤がぐわっと、志摩子の身体をお姫様抱っこのように抱き上げた。不意な浮遊感に、思わず志摩子はぎゅっと斎藤にしがみついた。
「怖ければ、俺の肩に顔を埋めていろ。そうしていれば、いずれ部屋に着く」
「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「迷惑だと思っていれば、そもそもこんな真似はしない」
「一様は……お優しいのですね」
志摩子を気遣いながら、落とさぬようにと斎藤は歩いて行く。軋む床の音に耳を傾けていれば、少しだけ怖さも減っていく気がした。