第8章 雨
「本当に大丈夫か? 志摩子」
「あ、はい。大丈夫ですよ、歳三様。雷が怖いだなんて、私もまだまだですね」
「……雷が怖い?」
「はい。小さい時から、駄目なのです。あの音が、怖くて怖くて」
そう志摩子が苦笑いを浮かべれば、本当にどこも怪我をしていない様子の彼女に、土方はほっと胸を撫で下ろした。斎藤はゆっくりと志摩子を離すと、距離を取る。
「俺は片付けをして参ります、副長は志摩子を連れてこの場を離れて下さい。道場は、よく音が響きますので」
「いや、俺はこの場に残って稽古の続きをみてやる役目がある。斎藤、お前が志摩子を部屋まで送ってやれ」
「……わかりました。志摩子、行くぞ」
「はっはい」
斎藤は一度志摩子に背を向けると、すぐにちらりと振り返り視線を送る。その意味がまったくわからない志摩子は、首を傾げた。
「嫌でなければ、貸してやる」
「……何をですか?」
「俺の手だ」
すっと、さりげなく斎藤が志摩子へと手を伸ばした。
もうその瞬間、そこにいた誰もがにやにやと嫌な笑みを浮かべて斎藤を見ていた。
ただ一人、土方だけは難しい顔で見つめていたらしいが。
「よいのですか? あの、一様こそ嫌では……」
「別に嫌じゃない」
「……では、その……宜しくお願いします」
志摩子は斎藤の手をきゅっと握った。そのまま二人は、道場を後にする。