第8章 雨
「きゃっ!!」
今度こそ、大きな声で志摩子が悲鳴を上げた。
すると、土方の横を斎藤が通り過ぎて行く。土方が斎藤を追うように、視線を泳がせていく。コマ送りのように、ゆっくりと振り返った土方の目には斎藤が志摩子へと真っ直ぐ走っていく姿が映る。
そして……――斎藤の姿を目にした志摩子は、彼へと手を伸ばした。
追い打ちをかけるように、更に雷が鳴り響く。
志摩子の身体は、ぎゅっと斎藤の腕の中に抱かれていた。
まるで、時が止まったようだ。
再び雨の音だけになった道場。顔を上げたその場にいた者達は、土方の視線の先を気にかけ追うように視線を向けた。
そこにいたのは、斎藤の腕の中に抱かれている志摩子だった。
それはあまりにも自然で、息を忘れるくらいに綺麗な光景で、誰もが声を忘れた様に二人を見つめていた。
「志摩子、大丈夫か……?」
「はい……大丈夫です、一様。ありがとう、ございます」
「怪我はないか? 先程、俺の木刀があんたに……」
「大丈夫です。何処にも怪我はありません」
力なく笑う志摩子に、斎藤は彼女の背中をさすってやった。斎藤のぬくもりを感じて、志摩子も落ち着いてきたのか、安心したような表情を見せ始める。
「怪我一つないなら、よかった……。すまない、あんたの悲鳴が聞こえたかと思ったら、思わず隙を作ってしまった。これは俺の失態だ」
「いえ、私の方こそ……邪魔をしてしまったみたいで、申し訳ありません」
はっと土方は我に返り、急いで志摩子達へと駆け寄った。