第8章 雨
「ちっ、斎藤……っ! もう手を抜いてもいいぞ?」
「何を仰いますか。手など、抜きませんよ」
「いつの間にそんな生意気に育ったんだ?」
「元からです」
会話と交わす余裕さえ見せていた。
雨音もまた、激しさを増し鼓膜を揺らすのは道場に響き渡る二人の起こす音と、雨の音だけ。時折外から聞こえてくる、雷のような音に一瞬……志摩子の身体がぴくりと反応した。
だがそんな様子を、他の誰かが知る由もなかった。
「これで終わりだ! 斎藤っ!!」
「いや……まだっ!!」
勝負は突如、決着をつける。
大きな雷のつんざくような音が、突如響き渡る。斎藤は不意に、一瞬動きを止めてしまった。いや、厳密には雷の音に反応したのではなかった。
「……――きゃっ」
小さく、誰かの悲鳴が聞こえた。斎藤はその声に、足を止める。
「貰った!!」
土方の一振りが、斎藤から木刀を奪う。木刀はあろうことか、志摩子へ向かい弾き飛ばされた。
「志摩子っ! 危ない!!」
「……っ」
斎藤が声を荒げた。咄嗟に目を向けた志摩子の視界に、木刀が入り込む。誰もが危ない――っと目を閉じた。しかし、斎藤と土方の目には映っていた。
志摩子が、間一髪のところで木刀を避けた瞬間を。
「……はぁ……っ、はぁ……」
志摩子は息を乱していた。しかし、何処にも怪我はないみたいだ。
それを見ていたのは、斎藤と土方だけだった。途端、再び大きな雷が鼓膜を揺さぶる程大きく響き渡る。