第8章 雨
「と、歳三様!?」
「お前もな……嫌なら嫌って言えばいいんだぞ? あいつは怖くねぇからな。ああして虚勢張って、人を遠ざけてるだけだ」
「え……?」
「昔からそうなんだよ。あいつらしいといえばそうだが。怖がってやるなよ」
「……歳三様は、よく総司様のことを理解していらっしゃるのですね」
「あいつとは、長い付き合いだからな。今じゃあれでも大人しくなった方だ。時間をかければ、今よりもう少しくらいは、あいつのことをお前もわかってやれるさ」
「……そうだとよいのですが」
「副長、手合わせ願えますか?」
二人の会話を遮るのは、斎藤だった。土方は「いいだろう」と意気揚々と斎藤の元へと歩み寄る。互いに木刀を手に、向かい合う。
「斎藤、お前とこうして剣を交えるのも……いつぶりだ?」
「さあ……俺も、はっきりとは思い出せません。きっと、そのくらいになります」
「稽古だからって、負ける気はねぇぞ」
「……俺もです」
隊士の一人が合図を取る。同時に、二人は一気に間合いを詰め挑み始める。彼らの打ち合いに合せるように、外の雨が一層激しさを増す。稽古をしていた他の隊士も、どうしても気になってしまい手を止め二人を見守っていた。
互角ともいえる戦いに、誰もがだんだん白熱し始める。
そんな二人を、道場の隅で志摩子は一人見つめていた。
――舞うような、剣技。
鮮やかで、とても優雅で……打ち合っているとは思えない二人に、思わず志摩子は息を呑む。誰がもが見入っていた。新選組の中でも、一二を争う二人の稽古。見入ってしまうのは、ある意味自然なのかもしれない。