第8章 雨
楽しそうに道場をきょろきょろと見て回っている志摩子に、他の隊士達が軽く挨拶をしていく。その光景だけ眺めていれば、志摩子もずっと前から屯所にいた一人のように思えてくる。
ふと志摩子が視線を泳がせた先に、沖田がいた。沖田はいつもの調子で、ちょいちょいと彼女を呼んだ。一瞬たじろくが、志摩子は目つきを変えて胸を張って沖田のところへやってきた。
「ぷっ……」
「えっ!? な、なんで笑うのですか!?」
「え? あはは、だって君……緊張した顔で胸張って堂々とやってくるんだもん。おかしくて」
「……そんなに変でしたか?」
「変っていうか、凄い僕のこと意識してるなって感じ取れて面白すぎた」
「え!!?」
「今日は稽古見ていくんでしょ? ゆっくりしていきなよ。僕も打つから、見てて」
「……見ません」
「あははっ」
拗ねたような顔で、おずおずと志摩子は反論した。可愛らしい反抗に、沖田は一層笑い出した。
見兼ねた土方が呆れ顔で近寄って来た。
「こら総司、志摩子で遊んでんじゃねぇ。暇なら斎藤と稽古してろ」
「ええ? 土方さん、これから一君とやるんでしょ? 僕はその後でいいですよ」
「なら平助とやってこい」
「ああもう、この鬼副長は。わかりましたよ。じゃあね、志摩子ちゃん」
沖田はそそくさと、逃げるように立ち去った。土方は大きな溜息をつくと、不意打ちのごとく志摩子の頭を優しく撫でた。