第8章 雨
元治元年七月。――都には、冷たい雨が降り続いていた。まるで、誰かの心を写し取るかのように。
初夏を思わせるじっとりと湿った空気が、都を満たしていた。
「志摩子! 悪いんだけどさ、ちょっとこっち来てくれないか?」
「平助様。はい、どうかしましたか?」
台所で千鶴と共に、食事の準備をしていた志摩子だったが、突然藤堂に呼ばれ台所から離れることに。藤堂に着いて行けば、そこには道場があった。
「あの、平助様……此方は?」
「俺達の稽古場! 志摩子ってさ、此処に来てから家事ばっかりじゃん? たまにはこうやってさ、気分転換もどうかと思って」
「気分転換……ですか。私が立ち入って、よいのですか?」
「いいって! 今日は、珍しいことに土方さんと一君の稽古が見れるんだからさ」
「……それは、楽しみです!」
「だろ?」
藤堂の無邪気な笑顔につられて、志摩子も微笑んだ。
藤堂はというと、暫くあれからあまり元気のなかった志摩子を気にかけていた一人であった。どうにかして、彼女を元気にさせられないものか……せめて笑顔にしてやりたいと考えていた彼は、ふと思いつく。
こうして稽古場を見れば、少しは気持ちも変わるかもしれないと。ちゃんと土方には許可を得ているらしく、問題はないらしい。