第1章 檻
「千景様、私を……此処から連れ出して頂けますか?」
「……お前は、俺の妻になるべき女だ。当然だろう」
志摩子は彼の差し出してくれた手を取った。
風間の手を取り、志摩子は生まれて初めて蓮水の門を潜り抜け外の世界をその目に焼き付ける。何処までも続く景色は、今まで彼女が見て来た小さな世界とは比べものにならないくらい広大で、眩しい。
志摩子は不意に風間の手を離そうとするが、風間はそんな志摩子の手をぎゅっと握った。
「千景様……?」
「離すな」
「……はい」
人と手を絡めてぬくもりを感じ合うことさえ、志摩子には初めてで……これから沢山の初めてを知るのだろう。それでもきっと、千景と共にそれを知れるのなら悪くないと志摩子は思うのだった。
少しずつ雪は解け切り、蕾が花開く。同時に、新しい季節と新しい時が訪れ始める。