第7章 聲
「僕はね、一見君に優しくしているようで本当はそうじゃないんだ。わかる?」
「わかりません……」
「僕はいつだって君を、躊躇うことなく殺せる。その君の弟だって、僕なら殺してみせる。……僕達の邪魔をする奴は、志摩子ちゃんだろうと誰だろうと……僕が必ず殺すよ。だから」
沖田はそっと、志摩子の顎を掴み上げて至近距離で彼女の瞳を覗き込む。刻み付けるように、忘れることは許されない。まるで呪いのように、沖田は繰り返した。
「僕は君を殺せる。君は、ただ此処で生かされているだけだ。捕虜として、どうやって殺してやろうか……じわりじわりと、その時を今はただ待っているだけに過ぎないんだ。君が池田屋で僕らと出会ったあの時から、君はもう死ぬ運命にあったんだよ」
「……ッ」
「どうせ僕らと仲良くしたところで、いずれ僕が君を殺す。土方さん達が出来ないなら……僕が、この手で君を殺してあげる」
その声に、志摩子はけして頷かない。言葉を返さない。いや、頷いてはいけない。返してはいけない。きっとこれに今応えてしまえば、すぐにでも殺されてしまうような気がしたからだ。
それくらい、今の沖田は志摩子にとって般若の仮面を被った優男に見えていた。
「あははっ、怖い顔してるね。ごめんね、怖かったんでしょ?」
「……いえ」
「あ、これあげるね」
沖田は庭に咲いていた小さな小さな花を、手折り志摩子の髪へとさした。