第7章 聲
「志摩子ちゃん、今から少し僕とお月見しない?」
「月見……ですか? 構いませんが……」
「じゃあ、こっちおいで」
沖田に手招きされ、志摩子は大人しく彼についていった。
月明かりの夜、屯所内は徐々に寝静まり始めているせいか、だんだん静寂に包まれていく。沖田と志摩子は、庭に設置されている長椅子に座りながら、呆然と月を眺めていた。
「志摩子ちゃんさ……大丈夫だった?」
「え?」
「凄く震えてけど、そんなに怖い人だったの? 弟」
「えっと……。怖い、と言いますか……恐ろしい、というのが一番彼には合っているのだと思います」
「恐ろしい? 不気味ってことなのかな」
「……それに近いと思います。彼は、幼い時から少し歪んでいて……私にとても懐いて下さいましたが。代わりに、私以外の者には攻撃的でした。特に私が仲良くしていた人には、より強く辺り、大きくなるにつれ怪我を負わせることもありました」
「へぇ、すっごい嫉妬深いのかな? 君の事が好きすぎて、とか?」
「……そんな可愛らしいものなら、よかったのですが」
冗談交じりに放たれた沖田の言葉も、志摩子が真面目に返せばそれも冗談ではなくなっていく気がした。
天という男は、一体志摩子以外の者達に何をしたのだろうか。尋ねてみたい気もしたが、先程の志摩子の様子を思い出せば、結局は聞けなくなってしまう。沖田がしたいことは、ただ知りたいだけで志摩子を怖がらせるためではなかった。
そうでは、ないはずだが……。