第7章 聲
「……! お前、化け物か……っ」
「……」
そう土方が口にした途端、天は一気に地を蹴り土方へと襲い掛かる。何とか刃を受けた土方だったが、彼の見た目に反した腕力に一瞬驚き目を見開く。けれどすぐに力を込め、彼を薙ぎ払う。
「ボクを化け物って言った? ねぇ、言ったよね? ねえッ!!」
「くっ……! 何なんだ、お前は……!」
どうやら、土方の何気ない一言が彼の何かの地雷だったのか、狂気に満ちた瞳をむき出しにして、一心不乱に刃を向ける。冷静さを欠いていた天の攻撃を避けるのは、案外容易なものだった。
天は息を乱し、ようやく動きを止める。
「あんたは姉様の何なんだ!!」
「はあ!? お前の言う姉様って……一体誰のことだよっ!」
「くり抜いてやりたいくらい、綺麗な紺碧色の瞳を持った姉様のことだよっ!!!」
「紺碧色の……瞳……」
それは見覚えのある特徴。だがわかったところで、土方の取る行動が変わるわけではなかった。
「お前の姉だって証拠はあんのかよ」
「ああ、別にない。ないよ! でもねボクは姉様を守るためだけに、そのためにあの家に拾われたんだ!!」
再び天の刃が土方へと向けられる、土方はやり返すように刃を受け流す。一気に天の動きを奪うべく、一点に集中し何とか土方が振り上げた一撃で天の手から薙刀は弾き飛ばされた。
「あ……ッ」
「天、とか言ったな? お前の目的は何だ。どうして山南さんを襲った?」
「襲った……? ああ、あの男のこと? 姉様の匂いがした……あんた達、姉様を隠してる?」
「何のことだが、さっぱりわからねぇな」
「……今日のところは、一旦引いてあげるよ。姉様に傷をつけたら、殺す」
天は瞬時に薙刀を拾い上げ、その場を立ち去った。霧のように消えた彼を、土方は追いかけることが出来なかった。
静寂がその場を包む、傷を負った隊士達がゆっくりと土方へと近付いて行く。