第6章 薫
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「私の事は、井上とでも呼んでくれ。事情は聞いているよ。曲者揃いの新選組だけど、根は良い人ばかりだから。怖がらないでね」
「……いえ! とんでも、ないです……怖がる、だなんて」
「さあ、志摩子ちゃん。沢山食べてね? ほら、僕の分まで」
そう言って沖田は一つ卵焼きを箸で掴むと、あーんと言いながら志摩子の口元へと運ぶ。「えっ」と戸惑う志摩子をまるでからかうように、その反応でさえ面白いとでも言うように、にっこり厭らしく笑んで志摩子が口を開けるのを待っている。
志摩子はおずおずと口を開けた。すると、卵焼きを食べさせられる。
「その卵焼きね、千鶴ちゃんが作ったんだよ。美味しい?」
「美味しいです。ふふっ」
不意に志摩子が笑い出す。その様子を、その場にいた誰もが静かに見守っている。時々、微笑みながら。
「おかしな方々ですね、皆さんは」
様々な表情を見せる新選組。もしかしたら、志摩子自身気付いていなかっただけで、心の何処かではやはり怖いと思っていたのかもしれない。
だとするならば、井上の言葉を頷ける。
けれど今の志摩子の心を満たしているのは、穏やかで温かいものだった。それは彼らがくれる言葉だったり、行動だったり。はっきりと口にはしないものの、自分を受け入れてくれる新選組の人達を……志摩子は少しずつ、信用し始めているのかもしれない。
此処に居ても、大丈夫なんだと。危なくはないのだと。怖いところではないのだと。
もしかしたら、それは志摩子の勘違いかもしれない。そう思い込む様に、優しくされているだけなのかもしれない。それでも……今この場所に満ちている温かさを、きっと志摩子は信じていくのかもしれない。
「ありがとうございます」
その場にいた誰もが、微笑んで志摩子を優しく見つめていた。