第6章 薫
「志摩子、こいつは山崎烝。うちの幹部で、監察の一人だ。腕は確かだから、心配すんな」
「そ、そんな心配はしておりません! 歳三様は……」
「俺は山南さんのところに行く。後は、わかってるな? 勝手な真似はするなよ」
「あ……っ」
土方は山崎に後を任せると、すぐに飛び出して走り去っていく。山崎は志摩子へと軽く会釈した。
「改めて、山崎烝だ。事情はわからぬが、とりあえず君を無事に屯所まで送り届けるのが俺の仕事。安心して着いて来てくれ」
「わかりました。どうぞ宜しくお願い致します。えっと……山崎様」
戸惑いながら、志摩子は今の現状を受け入れる。初めて会ったばかりの人と、二人きりにされるのはとても困った事態ではあるが、山南のことも少なからずは心配だ。
一先ず山崎と共に、志摩子は屯所へと向かった。
◇◆◇
屯所まで着くと、すぐに山崎は会釈して去っていく。此処までだ、とでも言いたげに。会話らしい会話もなく、二人きりの時間は唐突に終わる。
門の向こうに、人影がゆらりと揺れた。
「志摩子、だな?」
「一様。今、戻りました」
志摩子はゆっくりと門を潜った。斎藤は志摩子本人であることを確認すると、小走りで彼女へと駆け寄る。