第6章 薫
「……蝶と、毬の絵が施されている。桜より……あいつに似合うって言いたいのか」
再び布で包んで、土方はそれを懐に入れる。すると志摩子が店から出て来るのが見えた。
「あ、歳三様! 着物、選びましたよ」
「わかった、すぐ行く」
早足で志摩子の元へ戻れば、すぐに買い物を済ませ二人は山南さん達と合流するため町を歩き始めた。
行き交う人々は夜のせいか、男女が多く何処に視線を泳がせても、手を繋ぎ歩いている光景ばかり目にしてしまう。
志摩子は先程と同じように、自分の前を歩く土方を見上げる。
「志摩子、本当に他に欲しいものはないんだな? 後から言っても買ってやらねぇぞ」
「大丈夫です。それより、もし寄って頂けるならお団子屋に寄りませんか? 千鶴様にお土産を……」
「この時間に団子屋なんて開いてねぇよ。開いてるとすれば、花街辺りなんか賑やかだろうさ」
「花街とは、なんですか? 此処とは違うのですか?」
「……女のお前は、知らなくていいんだよ」
「……?」
前方から、一人の隊士が血相をかいて走ってくる。土方はすぐに気付くと、徐に走り出し隊士へと駆け寄る。
「おい! どうしたっ!!」
「例の路地裏の方で……山南さんが!」
「……! わかった、お前は屯所に先に戻れ。俺は一度こいつを安全なところへ連れて行く」
「わかりました」
土方は志摩子の手を掴むと、走り出す。