第6章 薫
「んじゃあ、適当に着物を見繕って……」
「土方君、私達はあちらの方で巡回していますからお二人で選んできて下さい」
「はあ?」
「では、また後程」
「おい! 山南さん!?」
何故か土方と志摩子を残し、山南は他の隊士を連れ巡察に行ってしまう。ぽつんと残された二人は、不意に顔を見合わせて……同時に苦笑いを浮かべた。
「はぁ……しょうがねぇな。行くぞ」
「はい」
土方の背中を見つめながら、志摩子は歩いて行く。顔を上げれば、腰まで伸びた土方の漆黒の髪が、一つに束ねられ揺れている様が目に映り込む。長くて、美しい。後ろだけ見ていれば、もしかしたら女性に見えるかもしれない。
少しだけ歩調を早め、土方の顔を横から覗いてみる。
眉間に皺を寄せ、少しだけ呆れているみたいだ。急に二人きりにされて、困っているのかもしれない。こうして一緒にいるだけなら、ただの男女が町を歩いているだけなのだろうが……今の彼は新選組の証である浅葱色の羽織を身に纏っている。
ただの男女とは言えないだろう。
一件の店に到着すれば、土方は足を止め志摩子に告げる。
「俺は店の外にいる、代金は俺が払うから決まったら呼べ」
「一緒には選んで下さらないのですか?」
「はあ!? なんで俺が……女の着物なんて選ばなくちゃならねぇんだ」
ぷいっと土方は顔を逸らしてしまう。一緒に選んでもらえると思っていた志摩子は、少しだけ寂しそうに眉をひそめた。