第6章 薫
――千景様は、お元気でしょうか……。
すぐに浮かぶ知り合いの顔といえば、やはり風間くらいだった。今の彼女では、自分の足で風間を探すことも出来なければ、きっと彼の元へ辿り着くことさえ出来ない。彼が今、何処で何をしているのさえわからないのだから。
ただ一つ、確かなことは風間が探している人物『雪村千鶴』がすぐ傍にいるということ。それだけでも、志摩子にとって新選組と共にいることに意味はあった。千鶴と共にいれば、いずれまた風間と再会できるかもしれない。それだけを、願って。
「おい、おい! 志摩子、聞いてるのか?」
「えっ!? あ……すみません。ぼうっとしておりました」
「ったく……ちゃんと返事くらいしろ。何かあったのかと思うだろ」
「すみません、歳三様」
困った顔で志摩子の顔を覗き込んだのは、土方だった。志摩子が大丈夫と笑えば、土方は溜息をつきながら顔を覗き込むのをやめた。
「だから、お前は着替えの他に必要なものはあるのかと聞いたんだ」
「着替えの他にですか? いえ、特にありません」
「そんなことないでしょう? 女性なのですから、遠慮しなくていいんですよ。全部兄である土方君がお金は出してくれますからね」
「山南さん……あんた、何気に面白がってねぇか?」
「いえいえ、とんでもない」
志摩子はそれでも着替えだけでいいと、そう土方に答えた。きっと本来なら、色々と揃えたくなるのかもしれないが、どれだけの時間を彼らと過ごすのかさえ、志摩子にもわからなかった。だからこそ、物が増えるのは寂しいものだ。
物は形と共に残っていく、思い出と違って。褪せてしまったとしても、それを見れば思い出してしまえる。
志摩子は、懐にある小刀のことを思いながら……そんなことを考えていた。