• テキストサイズ

薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第6章 薫



 ――千景様は、お元気でしょうか……。


 すぐに浮かぶ知り合いの顔といえば、やはり風間くらいだった。今の彼女では、自分の足で風間を探すことも出来なければ、きっと彼の元へ辿り着くことさえ出来ない。彼が今、何処で何をしているのさえわからないのだから。

 ただ一つ、確かなことは風間が探している人物『雪村千鶴』がすぐ傍にいるということ。それだけでも、志摩子にとって新選組と共にいることに意味はあった。千鶴と共にいれば、いずれまた風間と再会できるかもしれない。それだけを、願って。


「おい、おい! 志摩子、聞いてるのか?」

「えっ!? あ……すみません。ぼうっとしておりました」

「ったく……ちゃんと返事くらいしろ。何かあったのかと思うだろ」

「すみません、歳三様」


 困った顔で志摩子の顔を覗き込んだのは、土方だった。志摩子が大丈夫と笑えば、土方は溜息をつきながら顔を覗き込むのをやめた。


「だから、お前は着替えの他に必要なものはあるのかと聞いたんだ」

「着替えの他にですか? いえ、特にありません」

「そんなことないでしょう? 女性なのですから、遠慮しなくていいんですよ。全部兄である土方君がお金は出してくれますからね」

「山南さん……あんた、何気に面白がってねぇか?」

「いえいえ、とんでもない」


 志摩子はそれでも着替えだけでいいと、そう土方に答えた。きっと本来なら、色々と揃えたくなるのかもしれないが、どれだけの時間を彼らと過ごすのかさえ、志摩子にもわからなかった。だからこそ、物が増えるのは寂しいものだ。

 物は形と共に残っていく、思い出と違って。褪せてしまったとしても、それを見れば思い出してしまえる。

 志摩子は、懐にある小刀のことを思いながら……そんなことを考えていた。

/ 359ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp