第6章 薫
夕刻、珍しく山南が志摩子達の部屋を尋ねて来た。
「志摩子さんはいらっしゃいますか?」
「はい、います。その声は、山南様ですか?」
志摩子が戸を開けると、いつもの浅葱色の羽織を着た山南がいた。志摩子が不思議そうに首を傾げると、山南は穏やかな雰囲気のまま告げる。
「巡察のついでに、貴方の身の回りの物を揃えようという話になりましてね。今日は私と土方君が巡察の日ですから、丁度いいと思いまして。夕刻なので、すぐ陽が落ちて夜になってしまいますが」
「いいのですか? そのようなこと……」
「ええ、いいんですよ。土方君からも許可は得ていますから。外出準備が整ったら、玄関まで来て下さい。すぐに出発します」
「……わかりました!」
すぐに準備を済ませて玄関に着けば、既に数人の隊士と、土方と山南が待っていた。
隊士達は口々に「志摩子さん、危ないから俺達の後ろにいて下さいね」や「副長の隣なら安全ですよ!」と心配して言葉をかけてくれる。そんなささやかな気遣いでさえ、志摩子を嬉しくさせるものだ。微笑んでその想いを志摩子は受け取った。
陽が沈み始めている町は、太陽が昇っている時と違う顔を見せるものだ。志摩子はあの日、だんだんと陽が暮れていく空を池田屋で眺めていたことを思い出していた。