第41章 花嫁
「大きな声を上げて、人を呼びますよ!?」
「お前はこの一人きりの家で、ずっとあの男のことを想いながら死んでいくのか?」
「……ッ」
「触れられもしない、声も聞けぬ、お前を守ってくれるあの男の背中も腕も何処にもありはしないのに。思い出に浸りそれだけを愛して、お前は一人で死ぬのか」
「……そんな、そんな酷い事言わないで下さい!!」
「ならば俺が志摩子に無理矢理、裏切らせたのだと思えばいい。俺のせいだと、俺が連れ出したせいなのだと全てを俺に押し付ければいい」
「何を言って……」
風間はそっと、志摩子の頬に口付けた。
「鬼は鬼、人は人。結局はそれだけのこと。だが……そうだな、お前が望む通りに人と鬼は上手くすれば共存していけるのかもしれないな」
「千景様……?」
「俺は勝手にお前を守る、一人になどさせん。それだけだ。文句があるなら、俺の頬を叩けばいい。どうだ? 叩くか?」
煽られて、志摩子は思わず手を振り上げる。風間が目を閉じれば、志摩子は思い切り手を振り下ろしては……そっと風間の頬に触れた。
「貴方は身勝手です、強引に蓮水家から連れ出した時と、同じ」
「怒るか……?」
空を仰ぐ。
新選組と同じ、浅葱色の空が何処までも広がっている。
「私は永遠に、一さんのものです」
「わかっている」
「絶対に、変わりません」
「わかっていると言っている」
浅葱色の空を眺めていると、また涙が滲んでくる。
「千景様、私を……此処から連れ出さないで下さい」
「……お前は、俺の妻になるべき女だ。断る」
意地悪く笑っては、歩き出す。
小さな小さな物語。あの日の君を、今も胸に留めながら。
「これだから、男の人はどうしようもありませんね。本当に」
志摩子の涙交じりの声が、浅葱色の中に消えていった。