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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第41章 花嫁



「愛しています、一さん」


 跡形もなく消えた灰と共に、ぶわっと風が吹き荒れる。桜の木が軋み、花を一層強く散らしていった。


 ぱきり、小枝を踏む音がして志摩子は頬に涙を伝いながら、顔を上げた。


「迎えに来た、志摩子」


 桜の花びらの中、いつか見たあの金色の世界が、まるであの時と同じように突然志摩子の前に現れる。


「鬼は交わした約束をけして忘れない。お前はもう、忘れてしまったか?」

「……千景様」


 淡い光の中、初めて志摩子が蓮水家を出たあの時と同じように、風間が姿を見せた。伸ばされた風間の手を、志摩子は頑なに取ろうとはしない。


「お帰り下さい、千景様」

「それはお前の愛した男を、裏切ると思うからか? 今目の前で寿命が尽き、灰となった男を想っての行動か? ならば、俺はそんなこと気にはしない。そんなことで今更、引く程度でもない」

「私の心は、一さんと共にあります! 貴方の手など、取れるわけもないでしょう!?」

「そうか、ならば取らずともよい」

「……きゃっ!」


 風間は容赦なく志摩子を担ぎ上げると、徐に歩き始める。志摩子は「離して下さい!!」と何度も何度も、風間の背中を叩いた。


「志摩子の同意など必要ない。俺は、お前と交わした約束を果たすまでだ」

「そんな約束もういりません! 破棄です!!」


 じたばたと煩い志摩子に、風間は溜息を吐いて横抱きにして抱え直した。


「お前の心が、永遠に俺のものにならなくとも構わない。お前があの男を愛しているというのなら、それでもいい。志摩子、俺と共に来い」

「お、お断りします」

「ふん……」


 一度家屋へと戻ると、何故知っているのか……風間は棚から少し前に村人から志摩子達が貰った酒の瓶を掴むと、用は済んだとばかりに外へと歩き出した。

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