第41章 花嫁
「俺は、お前に出会えたからこそ、今の俺になれた。これは、けして悪いことではない。新選組を離れて、初めて知った誰かを愛しく想い、守りたいという気持ち。だからこそ、俺はこれからもお前と共に……生きていたいと、思う」
「はい」
「沢山旅をしてみたい」
「はい」
「畑を設けて、野菜を育ててみたい。お前の料理は、上手いからな」
「はい」
「なぁ、志摩子」
「なんでしょうか……?」
志摩子は斎藤の手に触れる。
「俺のことを、一さん……と呼んでくれないか? 一度でもいい。聞いて、みたい」
「一さん」
「もっと」
「一さん……」
「もっと、呼んでくれ」
「一さん……っ」
はらはらと、互いの手に涙が零れ落ちる。全てを予感していた、わかっていたからこそ……志摩子は泣き笑い、美しい涙を流していた。
「志摩子、笑ってくれ……。俺は、お前が好きだ。笑っているお前が、一番好きだ」
「一さんっ……」
「そう、そうだ。それでいい……」
「一さん……!」
「俺の人生は、お前に染められて……幸せ、だな」
ゆっくりと、斎藤の志摩子の手を包み込む手に力が抜けていく。ぐっと、身体ごと志摩子に凭れ掛かって瞼を閉じる。
「私の方が……貴方に愛されて、幸せ……ですっ」
さらさらと、花びらのように斎藤の身体は灰に変わり風に流れ、消えていく。
羅刹となった斎藤の寿命は、とっくに限界を迎えていた。必死に足掻き、戦い燃やした彼の命の炎は志摩子とこの地に辿り着き、過ごし始めた頃から既に限られていた。
全てをわかった上で、愛し、傍に居続けた。いつか終わりが来ることも、全てを受け入れて。