第40章 旗
「ここまでだな、志摩子」
「歳三様……」
「んな寂しそうな顔すんじゃねぇよ! てめぇに惚れたと、告白してきた男の前で見せる顔じゃねぇよ。馬鹿野郎」
「申し訳ありません……」
「俺は、お前よりも新選組を最終的に取った。けど斎藤は違った。だから……お前は、斎藤を選んだんだろうな」
「え……」
「生きろよ、何がなんでも」
土方が歩き出すと、千鶴は深く志摩子達に会釈して「お元気で」と一言だけ告げた。別れの挨拶は、長ければ長いほど次会えないのかと錯覚してしまう。また会おう、そんな想いを込めて土方と千鶴は二人の元から去って行った。
志摩子は斎藤の手を取ると、改まったように向き直って言葉を紡いだ。
「苦しいことも、辛いことも、私に半分……分けて下さいませんか? 貴方と離れてしまって、約束だけが残って柄にもなく寂しくて堪らなくなりました。こんなにも私の心の中に、貴方がいてくれているということ。とても、幸せでもありました」
願うように、誓うように、志摩子は今までの中で一番の笑顔を斎藤に見せて、告げる。
「貴方が、好きです。私と共に……生きて下さいませんか?」
呆気に取られたように、斎藤は目を見開いては瞬きを繰り返す。だがすぐに志摩子をぎゅっと抱きしめて、掠れた声で返事をした。