第40章 旗
「遅いぞ、貴様ら」
「しょうがねぇだろ? 俺達にだって色々あるんだ」
「それにしても、お二人が無事でよかった」
「志摩子……ッ!!」
最上階から必死に降りて来たであろう斎藤が、血相をかいて駆け寄ってくる。風間に気を遣い、顔色を伺いながら戸惑う志摩子の背を風間は穏やかな表情でとんっと押した。
「千景様……?」
「志摩子、お前はいつまでもそのままでいろ。余計なことは、何も知らずともよい」
「それは、どういう意味ですか……」
「鬼は交わした約束を忘れない。覚えておけ」
風間は天霧と不知火を連れて、その場を立ち去っていく。それさえも今の志摩子には、ただ戸惑いの材料にしかならないのだが。けれど振り返るのをやめて、駆け寄ってきてくれる斎藤に向かって志摩子も走り出す。
あと少しの距離……っ、伸ばした互いの手はしっかりと繋がって抱きしめ合う。
安心したように息を吐く斎藤に、志摩子は少しだけ泣きそうな気持ちになった。
「失ったかと思った……っ、心臓が止まるかと思った」
「申し訳ありません。でも、私はちゃんと此処にいますよ……一様」
「ああ……」
強く抱き合う二人を、微笑ましそうに眺めながら土方は千鶴を連れたまま、志摩子達へと歩み寄った。
「斎藤、此処から先は俺とお前、別々の道だ。お前はもう新選組隊士じゃねぇ、好きに生きろよ」
「副長……」
「もうてめぇの副長でも何でもねぇよ! まぁ、でも……此処まで一緒に戦ってくれて、感謝してる。ありがとう」
「……っ、勿体ないお言葉です。副長も、どうか……生きて」
「ああ、簡単に死ぬわけには行かねぇよ。もっとゆっくり、生きていくさ」
「歳三様……」
志摩子の視線に気付いた土方が、一度志摩子の頬へと手を伸ばす。触れられた手が、なんだか志摩子にとっては酷く懐かしいもののようにも思えた。